時は今
忍は四季のそばに来るとピアノの椅子にかけたままの四季を抱きしめる。
「四季は私のこと大事にしてくれるのに、向かって来てはくれないね」
「向かって来るって?」
「好きなら、もっとキスしたい、抱きたいって思うんじゃない?」
「忍は思うの」
「少しは」
抱きしめてくる忍の感触が疲れている思考をほっとさせた。四季は静かに言葉にする。
「好きだから大事にしたい、傷つけたくないっていう気持ちが僕の中にはある。あと…僕は免疫機能完全に回復してないから、抱いたりしても大丈夫なのかわからないし」
「あ…。本当はキスもダメ?」
「退院はしているから、そこまできつく言われてはないけど」
「…そう」
忍は、まず自分が風邪をひかないようにしよう、という気持ちにさせられる。
キスなんかで四季に風邪を移してしまったり熱なんか出されたりしたら、それこそ問題である。
それでも四季は本来の性格がそうであるのか、そういう理由がなくてもがっついて来るようなタイプには思えないのだが。
四季が上目遣いに忍を見た。忍が「何?」と訊く。
「……。何か…聞きづらい」
「何?気になるし」
「……。忍、抱かれたことあるの」
何かと思えば。忍はふっと表情を崩す。
「ないわ」
「……」
「気になってたの?」
「うん」
「四季は?」
「ないよ」
「え…そうなの?」
「そうなのって…。どんなふうに見られてるんだろう」
「だって四季、周りに女の子がいっぱいいるから」
「それとこれとは別」
「そうなの」
何だか話しているうちにドキドキはすっかりとけて凪のようになってしまった。