時は今
[301〜400]
早瀬は仕事に戻って行き、忍はまとめてきた荷物を片づけて、机の前に座った。
綺麗な机だ。天板がガラス張りになっている。
机の上にもスタンドがあったが天板の下にもライトがあり、明るくなるようになっていた。
「……?不思議な机」
呟くと、ノックの音がして、四季が部屋に顔を見せた。
「忍?片づいた?」
「うん」
忍は机の上に誕生日プレゼントに貰ったミニチュアのピアノを飾っていた。
机の透明な雰囲気にピアノの佇まいがよく似合う。
「この机、綺麗。下から明るくなるようになっているのが不思議だけど」
「ああ、これ、お父さんが絵を描く時にトレース台にしていたから。同じデザイン画で幾つか色を違えてサンプルを作りたい時とかね」
「あ…それでなのね」
忍は納得する。
四季は紅茶を淹れて来てくれていた。
ティーカップを受け取り、ひとくち口に含む。
「ふう。…落ち着いたわ。ありがとう、四季」
「そう?緊張しているんじゃないかと思ってたんだけど」
「緊張…少しね。でも慣れると思うわ」
四季はふわりと忍を見て、ぎこちなく視線をそらした。
「…何か」
「?」
「僕の方が緊張してる」
「え…そうなの?」
「うん」
微笑みがちに忍が四季を見る。小さな子にそうするように、髪に指先が触れ、四季の髪から頬にかけて優しく滑って行った。
困ったように四季が忍の手を掴む。
「忍に優しくされると、ダメみたいなんだけど」
「そうなの?じゃあ、どうすればいい?」
「わからない」
「変なの」
クスクス笑って、キスをした。
それから、四季は何か心に決めたように忍を見つめた。
「…やめた」
「何を?」
「まだ早い気がする。…僕、忍大事にしたいし」
「……。ありがと」
「──忍、そういうの怖い子?」
「四季のことは怖くないよ」
すらりとした忍の答え方に四季は安心したようだった。