時は今



「お兄ちゃーん」

 遠く、とたとたと駆けてくる音がする。

「美歌だ」

 四季は廊下に声を放った。

「美歌。こっち」

「えー?」

 声のした方を頼りに美歌は四季を探して、部屋にひょっこり顔を覗かせた。

「あ。忍さんだ!早ーい。美歌お迎えしようと思って走ってきたのに」

 休日のお出かけらしくお洒落した美歌の手には買い物袋。友達と遊んで来たらしい。

「えへへ。服買っちゃった。見る見る?この子ね、美歌に買って欲しいって超呼んでたのー」

 買って来たばかりの服を広げてはしゃぐ。

 確かにその服は美歌の雰囲気にピッタリで、お洒落に余念がないことを窺わせた。

「忍さんに似合いそうなお洋服もあったの。今度忍さん一緒にお出かけしましょう?」

 服の話が出たので、思い出したように忍が美歌に聞いた。

「そうだ…。あのね、美歌ちゃん、お洋服の店とか生地を扱っている店って詳しい?文化祭で衣装を作りたいんだけど、私、よくわからないから」

 美歌の目が輝いた。

「うん。お店のことなら美歌に任せて!作るのは…お兄ちゃんの方が上手いんだけど」

 四季は笑いながら言った。

「美歌はいいものをキャッチする能力と行動力はすごいから。それだけでもいい仕事してるよ」

「どんなの作るの?美歌、生地選ぶー。文化祭だから目立つ衣装がいいよね。予算は?お兄ちゃんも作るの?」

「作るよ」

「わー。ちょっと楽しくなってきた。文化祭、美歌もお洒落してくー。…って、その前に」

 美歌の表情が真剣になる。

「忍さん、お兄ちゃん、英語教えてー!美歌、英文法意味わかんなーい!」

 そう言えば美歌は受験生なのだ。忍と四季は笑って「いいよ」と答えた。



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