時は今
忍はそう言い切り、早織の目を見た。
「私は四季のことが大切です。だから、私の身分が四季に傷をつけるようなことがあるなら、私はここにいてはいけないと思います。もし、そういうことがあるなら、私に情けはかけずに縁をお切りください」
隆一郎と早織は顔を見合わせる。忍さん、と早織が慈しむ眼差しになった。
「あなたくらいの歳でそれくらいのことを言えるというのはなかなか出来ることではないわ。…あなたは苦労をなさったのね」
早織は忍の手を取り、包み込んだ。
「心配しなくてもいいんですよ。四季さんが選んだ人なんです。九頭龍の家があなたのような娘さんを要らないというのであれば、遠慮なく綾川の家にいらっしゃい。あなたを綾川の者として育て、あの家の者たちが後々になって『あなたをかえせ』と言って来ても、そうはさせませんからね」
力強い言葉だった。そこで忍はふっと楽になれる気がした。
「…ありがとうございます」
自然にそんな言葉があふれていた。
「──忍?」
今度は忍の後方から声がした。忍は振り返り、早織と隆一郎も「おや」と和やかな表情になる。
「四季さんだわ。ごめんなさいね、大事な人を束縛して」
四季は隆一郎と早織に礼をすると、忍の傍らに立った。
「何かあったの?お祖父様もお祖母様も。大事なお話ですか?」
「九頭龍の家のお話ですよ」
早織のそばで隆一郎がもうひとこと言い添えた。
「それと、ドイツにおられる忍さんのお祖母様のことをな」
「四季は知っていたの?九頭龍の家のこと」
忍に問われ、四季は答えた。
「僕もさっきお祖父様から聞いた。九頭龍の家と綾川の家とはこれまでに深い縁はないから、お互いの家の影響がどう出るのかは、ちょっとわからない。でも、九頭龍の直系の血を引いているのが忍のお母様なら、お母様が今はたとえ九頭龍の家から不当な扱いを受けていたとしても、お母様の力は九頭龍の家では小さくはないと思う。だから、忍のことも九頭龍の家の者は何処かで気にかけてはいるはずだ。それも今までは、忍のお父様の家柄がわかっていなかったから軽視していた部分もあるようだけど、これが九頭龍の家の者にも忍のお父様がどういう家柄の者なのかが知れると、九頭龍の家の者もどう出てくるかはわからない」