時は今



「──私、家族という人間関係がわからないんだと思う」

 忍はぽつりと言った。

「わからないから不安なのよ。四季には当たり前のことなのに、私にはその当たり前のことが基盤としてないから、心がついて行けていない。こんなことを言っても人にはわからないし、言われても困ると思うから、大丈夫なふりしているしかないけど」

 じっと聴いていた四季が、忍を抱きしめた。

「──困らないよ、別に」

「……」

「忍が幸せになれるように生きればいいよ。僕で聞けることなら、言って。わからないからいけないことだなんて、僕は思わないし」

 四季の言葉が忍には考えたことのない発想だった。

「わからないと不安にはならない?本人も、それを見ている周りの人も」

「僕は忍が不安そうにしていたら、大丈夫だよって抱きしめたい人間だから、困ってない」

「大丈夫って何を根拠に大丈夫なの」

「僕がそういう忍を愛しているから」

 どんな理屈だろうか。

 忍は思わずぽかんとした心持ちになり、クスクス笑い出してしまう。

「変なの」

「そうかな。…忍抱きしめていたら、僕が安心してきた」

「四季、何か不安だったの?」

「忍のことを考えていたら不安は尽きないよ。好きだから」

「尽きない、ね…。恋しているのね」

「僕ばかり恋しているの?」

「ううん。恋し方が少し違うだけ。──こういう話をしているの好き」

「……。忍、僕の部屋来る?」

「今日満月なの?」

「そうなのかな。忍が嫌ならいい。──最中好き?」

「もなかってもなか?好きよ。急に何の話?」

「十五夜の月のことを最中の月って言うから。満月って言うから最中のこと思い出した」

「ふうん…。まるい月の形から来ているのかしら?」

 手を繋いで家に入ってゆく。

 そうして忍は綾川の家に入ることになった。



     *



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