時は今
校内に入り学生食堂の外にあった椅子に座った。
ついて来た犬にもパンをあげていると、今度は私服の少女が「あ」と声をあげ、走り寄ってきた。
「すみません!それ、私の犬なんです!」
ワン!と犬が吠え、尻尾をふった。
「ワンじゃないよ。もー、何してるの。…ほんとにごめんなさい」
ぺこりと頭を下げ、少女は犬を抱っこした。
ゴスロリというのだろうか?少女はレースがふんだんに使われたフリフリの服を着ていた。
「涼先輩も何処に行っちゃったんだろう。もう撮影行っちゃったのかなあ」
「涼先輩?」
ついさっき耳にしたばかりの少女の名前に、思わず由貴が訊き返す。
少女の顔がパッと明るくなる。
「知ってるんですか?涼先輩!」
「ええと、桜沢涼っていう子?」
「そうです!可愛いですよね、涼先輩!私、ファンなんです!あ、これ見ます?超可愛いんですよ!」
少女は手に持っていた本を見せてくれた。ピアノの本ではない。雑誌である。
アンティークな洋館を背景に、白いロリータ服を着たツインテールの少女が表紙になっていた。
それが先刻見かけた、桜沢涼なのである。
「うわ…。涼ちゃんだ」
「似合い過ぎる」
四季と由貴が呟くと、少女はうっとりしながら言った。
「ですよね!姫ですよね!私、涼先輩がこの近くに住んでるって知ったの、つい最近で!もー、感激で!追っかけ、やってるんです!」
「お兄様たちも素敵ですね!」と、少女は目を輝かせた。
「涼先輩のお友達ですか?モデルとかやってるんですか?」
由貴はびっくりして「違うよ」と否定する。
「俺たちは一般人。俺、この春から、ここの高等科に進学するから、それで今日は学校の下見に」
「涼ちゃんはちょっと知り合いというか…ね」
「うん」
「そうなんですかー」
少女はふたりを見つめ、嬉しそうに言った。
「じゃあ、この春からは涼先輩に会いに来た時はお兄様たちにも会えるかもなんですね!楽しみです!会いに来ますね!あ、私、モモって言います!よろしくです!」
元気よくあいさつをすると、またぺこりとお辞儀をした。