時は今
「──あ、庭の灯りがついた」
家の窓から庭を見やって祈が呟いた。
庭の奥にある小さな東屋の灯りは、人が来ると反応して灯りがつくようになっているのだ。
「たぶん、四季のお友達がそこにいるんだよ」
由貴たちがそれを見て、少しほっとしたような表情になる。
「親父、帰ろう。あとはあの女のことは樹に任せる。俺、疲れた」
由貴は涼しく言って、立ち上がる。
忍が心配そうに口を開く。
「丘野くん、真面目な人だけど…。高遠さん大丈夫かしら」
「あんな女王様、また何かあっても、男の顔殴ってるわよ!忍さんが心配するような人じゃないわ!」
美歌がきっぱりと言い切った。
客間に戻って来た四季が庭から聴こえてくる歌声に耳を澄ます。
「丘野くん、いい声だね。高遠さんの歌をよく聴いてる」
のんびりとした四季に、美歌が四季の顔色を見て「お兄ちゃん」と突っ込みを入れる。
「お兄ちゃん、今日疲れてると思うわ。忍さんも由貴お兄ちゃんも隆史おじさまもだけど。もうお部屋で休んだ方がいいと思う」
確かに体力のある由貴ですら「疲れた」という言葉が出てくるくらいなのだ。
四季にはかなり負担が来ていると思われた。
四季は美歌の気遣いにふっと首をめぐらせて、考え込むように額に手をやった。
「…うん。今日いろいろありすぎて思考が止まってる。疲れてるかも」
隆史が柔らかい表情になる。
「四季くんは今日はよく頑張ってましたね。ありがとう」
「…おじさんに感謝されることはしていないんだけど」
「うちのクラスの生徒と音楽科の生徒のトラブルのために奔走していた、という意味でね。高遠さんも無事でしたし」
「ううん。こういうことがあると学校の先生って、自分の人間関係でもないのにいろいろ考えたりしなきゃいけないの、大変だなって思う。人って自分の人間関係のことでも神経遣うのに、ましてや自分のことではない人間関係のことでって」
由貴が肩をすくめた。
「親父見てると、教師やってるの、そういう意味では尊敬するよ。こういうので心労が重なって休職する先生なんかもいるし」