時は今
「由貴、高校入ったら騒がれるよ。女の子に」
覚悟しておいた方がいいよ、と四季が言う。
容姿端麗で優しい四季はバレンタインに相当な数のチョコレートをもらって来ていた。
どうするのそれ、と思わず四季に聞いていた由貴だったが──。
「俺、四季みたいに優しくないから、そうはならないと思う」
「…そうかな」
「ホワイトデー、お返しどうするの?全部にお返ししていたら、四季、大変じゃないの」
「うん。でもそれを期待している子もいるし」
何というか、ここまで来ると尊敬の領域である。
「今年は彼女がいるから、そんなにお返しは期待されていないかもしれないけど。一応もらった子にはね」
「四季の場合、こういう時のために彼女はいた方がいいと思う」
「ふふ。こういう時って」
「だって男に拒否権ないし。いろいろな意味で。バレンタインデーって。それで集中攻撃されても」
「そうだけど」
由貴の言い様に四季は可笑しそうに笑った。
「──校舎、見て回る?」
由貴が立ち上がって深呼吸をした。
「音楽室見たい」
「真っ先にそこなの」
「こういう時でもないと、よその高校の音楽室なんて見られないし」
「いいけど」
ふたりは並んで歩き始めた。
*