時は今
「ちょっ…」
四季の意外な決断力に忍の方が最初困惑し、だが、四季が気遣ってくれているのだ、という姿勢を後ろ姿に感じて、歩いてゆくその後を追った。
その四季と忍の姿を遠くから見つめる目があった。猫の姿の彼は何を言うでもなく、遠ざかってゆくふたりを追うことはしなかった。
天気の良い日だった。
雲の流れもなく、いつになくぽかりとした空が何処へなりとと言葉なき表情でたゆたっていた。
「あの…」
後方から遠慮がちに四季に声をかけ、追いついて並んだところで忍は四季の横顔を窺った。
四季は安心したように言った。
「わりと元気なんだね。良かった」
言われて、忍も思ったより自分に動ける力があるのを自覚する。
「…うん。久しぶりに走った」
「何処に行こう…。揺葉さんの姿が見えるのなら、普通に食べられるところでもいいんだけど」
「ごめんなさい。会った早々気を遣わせて。私もきちんと食べられるかどうか自分でも不安だから、買って外で食べられるようなものがいいかなと思って…」
「それだとコンビニ?ファーストフードもあるけど」
「最初に見つけたところでいいわ」
揺葉忍はともすると近寄り難そうなイメージを抱きそうなまでの美少女なのに、話す言葉は以外に素朴でトーンが穏やかだ。
気分がほっとするというのか…。
四季は隣りを歩く忍をちらちらと窺った。
「揺葉さん、トーンがクラスの女子と違うね。穏やか」
「クラスの女子?」
「うん。元気」
「変なの。元気じゃない方がいいの?」
「うん…?同じくらいのトーンの子だと、落ち着く」
優しい雰囲気の綾川四季は忍の目にも「モテそうな男子」として映ったが、その四季が意外にも内面は浮わついたところのない感じの物言いをすることに、忍の方も四季に親近感を抱いた。
「あ、コンビニ」
行く手にコンビニの看板を見つけて、四季が声をあげた。
「僕、何か見繕ってくる。揺葉さん、何食べたい?」
「サンドイッチかおにぎり。軽めのものがいいわ。食べられなかったら困るから」
「わかった」
行ってしまおうとする四季に、忍は呼び止めた。
「ちょっと待って。お金」
揺葉忍がお金を差し出して来たのである。
四季は怪訝そうな顔をした。
「えーと…。このお金も見えるかな?」
「わからないわ。でも人の生死の関係でお金が見えたり見えなくなったりすることはないと思うけど…」
「元々、揺葉さんのお金?」
「そう。お財布の中の」
「使ってみる」
「ありがとう。そうして」