時は今
四季がコンビニに入ると「いらっしゃいませ」の挨拶の声とともに店員の子が「あ」というような顔をした。
「四季くんだ四季くんだ」
輝谷音大生っぽい、と四季はレジの方は直視せずに、おにぎりとサンドイッチを探し始めた。
音大生の間でも四季は有名で「附属高校のイケメン君」で通っているらしく、イベントがあったりするとメールアドレスを聞かれたりする。
音楽関係のことで繋がりが広がるのはいいのだが、ミーハーに「四季くんが個人的に構ってくれると嬉しいな」と思っている子がひとりやふたりではない場合、四季も困るので、なるべくそういう状況にはならないように、それとなく接触を避けることがあるのだ。
忍の分だけを買うのも忍が食べにくいだろうと思い、四季は自分が食べる分も選んだ。
(飲み物どうしようかな…)
ふっと気がついて、四季は飲み物の棚の方も見て、コーヒーとお茶をひとつずつ取った。
レジに向かうと音大生らしい人が接客してくれた。
「いらっしゃいませ。…四季くん、もう授業終わったの?」
「ううん」
「えー?早引き?」
「うん…。風邪みたい」
調子がそれほどではないのは事実だったので、四季は素直にそう答えた。
買うものを選んでいる間、いつになく表情に乏しい四季から「元気がない」と感じたようだった店員は、優しい表情で言った。
「気をつけて。四季くん元気ないと淋しい子増えちゃう」
「え…っ。すみません」
「あは。いいよー。元気ない時は仕方ないよね。無理しないで」
きゃぴきゃぴというほどでもない、かしこまりすぎてもいない、親しみやすい物腰で店員は接客してくれた。
またね、というように店員は手を振ってくれた。
コンビニを出て、四季は少し歩く。コンビニからは見えない家の外壁に軽く背をもたせかけて、揺葉忍は立っていた。
「買えた?」
「うん。大丈夫。揺葉さんももしかしたら他の人の目に見えている可能性もあるけど…」
お釣を渡して、四季は歩き出す。
「運動公園の木陰なら人目につかないかも?大会の時期ではないし、この時間だと人も少なさそうだから話しやすいかも」