検品母
事件

1

秀子は、あゆみと一郎を送り出し、緋那の幼稚園バス停から、帰ってきたばかりだった。バス停にいくだけでも、ファッションは手を抜かない。今日は、フェリシモのふんわりカジュアル。また、秀子はこれを着こなすだけの容姿だと自他共に認められている。けど、なあに?13号サイズのユニクロと15号しまむら!見苦しいの通り越して笑っちゃう。
 朝ごはんの片付けをしなきゃ、と思いつつ、LDKのリビングで、新聞を広げた。特に興味のある記事は無い。というより、秀子には、1,2面の記事の面白味を味わう事ができなかった。スーパーのチラシをチェックしなければ、と選り分け始めると、バナナがやって来た。バナナはコーギー犬である。新聞より私をかまえ!ということらしく、秀子の手を舐めたり、紙面に手を置いたりする。しかたなく、そこを離れて、片付け物を始めた。さすがにシンクの上までは手を伸ばせない。胴長短足のコーギーは。
 片付けを終わって、庭の様子をバナナと見に行くと、上空をバラバラとヘリがうるさい。秀子はうっとおしい、何かあったのかしら?と迷惑と好奇心の目で、空を見た。
 あじさいの鉢のところへ来ると、電話が鳴っている。面倒さと期待を持って、サンダルを脱いだ。
「のぞみ台小学校の岩下ですが、山口さんのお宅でしょうか?」
「はい、あゆみがお世話になっております。」
「あゆみちゃんの事で、至急学校にいらして下さい!」
「え!あゆみがどうしたんですか!」
「ともかく、早くいらして下さい!」
という言葉で、一方的に電話は切れた。
受話器を置くと、秀子はパソコンがフリーズした様な状態だったが、なんとか車に乗り込み、小学校に向かった。普通じゃない状態でも、わかりきった道、いつもの車体に染み付いた動作は、勝手にできてしまう。
 校門のところでは、先ほどの岩下先生が待ち構えていた。40程の物慣れた感じの、学年主任である。パトカーと報道陣が遠巻きにしている。秀子は、それらがただ居るだけで嬲って来る様な風に見えた。






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