検品母
田村奈津子は、ボランティア仲間の忘年会の帰り、その一人に車で近所まで送ってもらった。
ふと、空を見上げた。飛行機のライトが見える。
「山口緋那ちゃんが乗った飛行機かしら?」
実は、田村奈津子は、面会にもいかない山口秀子の家族に代わって、面会に行っていた。
コーギー犬のバナナを結果的に引き取る事になったことだけでなく。
何回目かに、面会に行ったとき、山口緋那は、こう言った。
「ひなちゃんね、あめりかのおっちゃんとおばちゃんと、あめりかいくの。」
母親と別れたことなど、忘れたかのような幼い無邪気さが不憫だ。
「あめりかのおおきいおうちにすむの。」
田村奈津子は、♪赤い靴はいてた女の子異人さんに連れられて行っちゃった♪のフレーズを思い出した。
山口秀子の家族が、悲劇的な結末を迎えつつある時に、この子だけに希望が持てる気がした。
しかし、山口あゆみは、一体どこへ行ってしまったんだろう?




















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