検品母
「ああ、まだ寄ってる。」
家の吹き抜けから、吉冨佳代子が、見ていた。
パソコンで送るイラストを送った後、階下に降りようとしたら、見えてしまった。170cmもあるので、普通の高さの窓でも、見通しが良過ぎるのだ。
「晩ごはんの仕度せんで、ええんかいな。」
人事ながら、心配すると、佳代子は、170cmに合わせた外国製システムキッチンに向かった。
在宅のイラストレーターである佳代子は、娘の麗華が学校に行っているあいだ、仕事をし、
麗華が帰ってくると、家事をしながら、話を聞いてあげたりする。
買いだめした食材を小出しにしていたら、麗華が帰ってきた。
「もう、イヤやわあ。また、命の大切さについて、校長先生の話。はよ、家帰ってすることあるのに。」
冷蔵庫から、ウーロン茶を出しながら言う。
佳代子は、夏季限定トロピカルチョコの封を開けながら、
「命の大切さなんて、わかるヤツにしかわからんのに。」
「ママみたいに何回も死にかけた人間とか?」
「そういう人とか、せっぱ詰まった状況を経験してる人かな。お家が離婚とか嫁姑で大変だったり、大人になって責任の重い仕事をしているとか。」
「なんで?」
「それって言うのは、なんかプレッシャーがあるゆえに、生きていること自体すごく貴重な事だってわかるの。」
「んー。わかんないや。校長先生の話がロスである事はわかった。」
佳代子は、ロスなんて言葉、何時覚えたのかしら?と思いながら、晩ご飯の用意にまた戻った。

< 13 / 114 >

この作品をシェア

pagetop