検品母
吉冨佳代子が、「何回も死にかけた」とは、小さい頃から喘息の発作で生死の境を、何度もさまよった事をさす。
「アレ」の予兆は、日がとっぷり暮れたころ、忍びよってくる。
「おかあさん、あかん...」
「吸入したんか?」
「うん。でも、あかん...」
息が苦しくなり、佳代子は座位になってなんとか凌ぐ。
「はよ、ガレージ行きなさい!」
母親の、美奈子は、座ったまま動こうともしない佳代子を引きずり出し、
車に乗せた。
「なんでもっと、はよ、言わへんの!」
チアノーゼで返答もできない佳代子に向かって、美奈子が吼える。
でも、佳代子は言えないのだ。
美奈子にいつも、喘息やアトピーの症状を訴えるたびに、ヤーな顔をされるから。
なぜか?
近くに住む、美奈子の夫とその一族が、佳代子のような子を生んだ事を無言で責めるからだ。
いつか偶然、本家に行ったとき、美奈子は夫の一族の悪口を立ち聞きしてしまう。
「...同じ出来るのに、しょわないこぉ(世話の掛からない子)でけへんかったら、損やで...」
佳代子が産まれて以来、そんなことが絶えずあり、美奈子は佳代子に向き合うのが、苦痛になりつつあった。
そういう雰囲気を佳代子は、嗅ぎ取り、症状を早めに言えないのだ。
「ほんま、お父さんのおれへんときに限って。」
その頼りにすべくお父さんは、経済的なこと以外一切頼りにならず、
アトピーで肌のずず黒い佳代子に見向きもせず、他のキレイな女の子を物欲しそうに眺めている。
そして、家庭から逃げたいからか、残業に次ぐ残業をし、30代で部長になった。





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