検品母
職員会議では、授業の進行、夏場になりつつある事への注意事項のほかに、山口あゆみの分だけ、通常事項と同じくらい掛かる。
「山口あゆみちゃんは、鑑別所に収容されましたけども、状態は安定しているそうです。
ただ、お母さんはショックで入院して、お父さんは...」
校長はそこまで言いかけて、島田先生に目をやった。
島田先生は、「おおい!私に振るなよ!」的な視線を返した。
そこで、主任の岩下先生がフォローした。
「校長と島田先生と3人で、山口あゆみちゃんのお宅へ学校に置いてあるモノを持って行ったんですが、インターホーン越しに対応されて、追い返されました。」
先生方は、目を見合わせた。
「そこで、モノを持って行くのを近所の吉富麗華ちゃんに頼むことにしました。」
「でも、そんな父親のところへ、いくら級友とはいえ、女の子一人遣って...」
先生の一人が反対した。
「大丈夫です。私と島田先生が物陰でいて、何かあったら対応します。」
「でも、山口あゆみちゃんのモノを返す返さないに拘る必要ないじゃないですか?」
別の先生が言う。
「いえ、山口あゆみちゃんのモノを見ただけで、PTSD起こす子がいるんです。」
カウンセラーの倉田理恵子が、説明する。
「今の子は、おうちも産まれたときから、冷暖房完備。水洗トイレ。嫌いなものは無理にやらせない。一種の無菌状態なんですよ。だから、異質なモノに対して、拒絶反応がひどいのですよ。私なんかの頃は...」
と、校長の昭和30年代の昔話が5分続いて、
「というわけで、モノだけでも返しに行ってもらいますんで、よろしくお願いします。」



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