検品母
理恵子は、よく言われた。
「これぐらいかわいくなくて、なんで女に生まれた意味があるんやろ。」
と、それで、おもちゃでも服でも何でも買ってくれた。そして、きれいな親子と言われるのがうれしくて、よく連れ出してくれた。
そのように、母は、きれいな人で、専業主婦。きれいだから、今のクラスの父親をゲットできたのだと、堂々と公言していた。
ただし、成績が下がったとき、スカートがきつくなったとき、立てなくなるまで折檻された。
「勉強ができないと、太ると、落ちるとこまで落ちるのよ!」
だから、成績の良くない、でぶった子が、明るくしているのが許せなくて、ネチネチいじめたものだ。
やがて、理恵子は、思春期のデブ味走る危機をすりぬけ、一流大に入った。
そんなある日、理恵子の母親が、病院から連絡を受ける。
「お宅のお嬢さんをアルコール中毒症で、保護しています。」
駆けつけてみると、サークルの仲間が、点滴を受ける理恵子を取り囲んでいた。
居酒屋で、暴飲暴食し、吐いては食いを繰り返したのだと言う。
「僕らが付いていいながら。でも、なにかに取り付かれたように、食べるのです...」
以来、 理恵子は 過食嘔吐を繰り返した。
「毎日買い物行って、その日の分しか、食事作らないから。お小遣いも、昼食の分だけ渡すから。」
それでも、賄い付きのバイトを探してきて、バイト先で過食嘔吐を繰り返し、連絡を受けるようになる。
「かわいそうに。家であんじょう、(この場合必要十分に)食べさせてもうてへんのやな。」
大衆食堂の、むっちり太ったおばちゃんに、憐憫の目で見られた母親は、
「恥知らず」と折檻した。
すると、今度は、リストカットを繰り返す。
そんな、過食嘔吐とリスカの日々のうちに、精神医学や臨床心理のに救いを求め、こちらの方面に来たのだった。
「衣食住足りても、礼節を知らない家庭ばかりだものねえ。」
山口あゆみの家庭がキチンとしているのは、聞いている。が、内情は知らない。
ただ、倉田理恵子のような人間には、どんな薄ら寒い家庭か、容易に妄想できた。
山口あゆみは、私の生い立ちの途中で、暴発してしまったのだと思われる。
それでは、なんで?
< 20 / 114 >

この作品をシェア

pagetop