検品母
いつもより念入りに掃除した家に、約束の時間より軽く1分オーバーで入ってきた。
手土産に、弥生の好物の菓子メーカの紙袋を提げている。
ノーネクタイだが、折り目正しいスーツ。175cmくらいで痩せぎすで、小面。
「突然の事で、驚かれると思いますが。」
まず、相手の心中を汲むという、年配者への対応もソツない。行き届いたホテルのドアマンのように、慣れた感じだ。
「生活に一生不自由はさせません。もし、私に何かがあったとしても、その場合に備えも考えています。」
彰治朗は、それを聞いて、今どき律儀な若者と、うなずいた。
関東の名家の分家で、関西に赴任中との事。
いずれ、あちらに行くので、離れ離れになるのが少し気に掛かるが、ハイソなあちらの雰囲気はイヤではない。
ふつう、相手の親に会いに行くとなると、ガチガチになるものだが、床の間の花に目を留めたりと、場慣れしている感じがわかり、専業主婦で、かしこまった席とは縁遠い弥生も、落ち着いてお話できた。
「しばらくは、秀子も慣れないでしょうから、近くの戸建を借ります。」
その戸建、築年数の浅いオール電化で、間取りは4LDKと、
「さすが、大手企業の人は、住むとこも、ちゃう。」
と、秀子の両親をうならせるものだった。
先に結婚したお子さんのいるお友達に聞くと、文化住宅をモダンにしたような、2DKが新居という事も多いのに。しかも、ダンナの通勤の便利なところが多いのに、こちらの実家近くに住んでくれる。
式場の手配から、結納まで、多忙な仕事の合間を縫って、秀子の負担のないスケジュールで進めてくれた。
< 23 / 114 >

この作品をシェア

pagetop