検品母
宮下恵子は、インターネット掲示板を見て、合格発表の子供のようにはしゃいだ声を出した。30畳のリビングダイニングの隅のパソコン。
「なんやねん!オレはもうねむいんや!」
洗面所から、正一が叫ぶ。
「しょーちゃん、見てよ!」
「子供の事件か。んなん最近多いやん。」
宮下恵子達は新聞をとらず、ネットのニュースで間に合わせている。
「そのお母さんっつーのが、小学校のとき私を誹謗してくれたメス犬なの。」
「そうなん。結婚してからの姓、知ってるのか?」
「母が、秀子のオカンにタラタラ自慢、たれられたさかい。知ってる。なんでも、エリート君をいわした(この場合ゲットの意味)って得意げだったけど、きゃはははは!」
箕面正一は、やれやれ相撲の白鵬の次の、おしゃぶりが出来たようだと、苦笑した。
恵子は、何かのマイブームがあると、生き生きしている。
もちろん、言語訓練師という、仕事はあるのだが、それとは別物らしい。
箕面正一は、宮下恵子をそうやって観察するのが面白い。野次馬的な意味でなく、じーっと見ているのが。だから、今の仕事を選んだのかもしれない。
恵子達は、夫婦別姓。子供はいない、っていうか恵子が欲しがらない。
口蓋裂というハンデをもち、加えてそれを引け目に、恵子を抑圧した親に育てられたから。
「子供なんて、高等なペットやろ?」
「親はエサだけくれた。燃料だけ積んで車検せえへん車みたいなもんや。」
箕面正一は、エサくれるだけで上等やん。と思いつつも、宮下恵子を否定しない。
身障者コロニーの養護学校に勤め、不幸な生い立ちの子供たちを世話しているから。
そんな世界に親しみを感じるくらい、正一も不幸な子供だったから。

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