検品母
正一の両親は、小学校の時に離婚し、母親が弟の浩二と正一を女手一つで育ててきた。幸い、母親の由美は、看護師だったので、夜勤で家にいない事を除けば、なんとかやっていけた。離婚後、貧しい生活を強いられる母子も多いのに。
それでも、由美は母子家庭だと言うことをどこか引け目にしているゆえ、正一は陰日向に抑圧を感じて生きてきた。
そういう子が、長じて選ぶ仕事の一つに、医療福祉関係がある。
大学を出た正一は、養護学校に就職し、主に発達障害の子供の指導・世話をしている。
ある日、ダウン症に口蓋裂を併発した笹岡詩織ちゃんという子が、入ってきた。
正一は、発達に言葉の問題もあるゆえ、指導に行き詰る。そこで、詩織ちゃんに係わっている関係者の一人、宮下恵子にリエゾン(専門家同士が協力して、患者・クライエントの治療・社会適応などに動く事。)を要請した。
宮下恵子と詩織ちゃんの事を話し合ううちに、プライベートでも遊ぶようになった。
というのが、ご縁であった。
ふたりは、宮下恵子の親が買ってあった、住宅地に、ローンで鉄骨の家を建てた。
恵子の親は、恵子が結婚できるとは思っておらず、そのうち駐車場にでもするしかないと、考えていたのだ。
間取りは、本間の5LDK。
子どものいない、夫婦には、少し広すぎる間取りだ。

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