検品母
こんな状況を、改善してゆく目処を見つけることが、鑑別所の山口あゆみの担当になった、西原沙帆子の仕事である。しかし、その仕事は困難なものになりそうだった。
自閉症及び高度機能自閉症ならば、脳の異常なので、正常な部分からアプローチできる。西原沙帆子は、こうして自閉症児が、心の交流ができて、こちらの我々の日常にやってくるのを、目の当たりにしていた。
けれど、各種心理テストの結果・脳CTは、「特筆すべき心身の異常はなし。」つまり、山口あゆみの正常な脳全体が、心の交流の機微を解さない、人の心をデジタルに見る状況にある。「困ったな。」考えあぐねた西原は、箱庭をすることにした。
西原は、あゆみを箱庭の部屋に通す。箱庭療法は、クライエントが心の内界を表現し、心の問題・トラウマ等の解決を促す治療的側面と、心を伝える心理テスト的側面がある。部屋の中央には、内側が青く塗られた、砂を入れた箱があり、壁際に、本棚みたいな棚がある。棚には、人・動物・木・乗り物・家具のミニチュアなどが。
あゆみは、歓声を上げ、西原に言われるまでも無く箱庭に取り組む。すぐに、棚の物を、まとまった感じにしあげた。すると、西原は聞く。

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