検品母
田村奈津子は、コーギー犬バナナも一緒に計4匹の犬を散歩させていた。まず、2匹を連れて行き、次に残り2匹。全部で1時間。ちょっとした重労働である。奈津子の家は、50坪程の家が200坪の敷地に建つ、兼業農家。だから、高い塀をめぐらしたところへ、広々と犬達を、放している。
他の犬とバナナがうまくやっていけるか、心配だった。が、犬たちはバナナの口元、おしりを嗅ぎ回し、3匹それぞれが、バナナとレスリングをして、順位を決めていき、バナナは気の毒にもバナナが最下位だったものの、順位が決まると、お互いまったり過ごしていた。奈津子は順位に従って散歩に連れてゆく。1位2位が先陣で、3位4位が後発部隊だ。
ただ、人間の場合はそうはいかないなあ、と奈津子は思う。ママ友でも力関係があるが、低く見られた方は、一方的に優位に立たれた方に、一方的に牙を剥いて、交渉を絶ってしまう。それが、人間が万物の霊長故なんだろう。それが、良くもあり悪くもある。
奈津子は趣味のサークルで、夫と知り合い、大学生と高校生の、女の子男の子がいる。奈津子だって、山口秀子たちのように、女の子が成長するに従うしんどさ、ママ友とのおつきあいのむつかしさ、を感じてきた。ダンナの収入、子どもの出来。本人の容姿・起用さ。その比較と、つりあいゴッコで成り立つ人間関係。それでも奈津子は、他の女とは違った感覚をもっている。奈津子の母は、信心深い人で、仏事やお地蔵さんの花を換えたり、といった事を熱心にする。新興宗教とか言うのでなく、日本人に身近な仏教、神道を通じて、人や自然を生かしている存在を信じている所があった。奈津子もその影響で、自然にそういうことに親しんでいた。だから、日常に対してしんどさを感じても、「なるようになるさ。」と、少し一歩引けるところがある。それでも、日本の「自分は人と比べてどうか。」という無駄な緊張感には、いい加減疲れていた。

< 33 / 114 >

この作品をシェア

pagetop