検品母
山口あゆみは、鑑別所から少年院に移ってきていた。以前、悪さをした小学生は、教護院で充分だった。しかし、多発する少年犯罪のおかげで、少年院に小学生の収容施設が併設される事となった。
あゆみは、少年院の規則正しいカリキュラムに沿って、小学校に通っているのと同じ様に過ごし始めた。普通の子はまるで自衛隊のような厳しいカリキュラムには音を上げるが、あゆみはラクだと思う。
「あ、ブラッシングが足りない、これ以上食べたら明日菜ちゃんみたいなデブになるからダメ、宿題をしてからドリルもしなさい。あんた舞子ちゃんみたいな障害じゃないから、勉強できるでしょう?体をもっとキレイに洗いなさい。アトピーになっちゃう。」
というような、秀子のうるさい小言の方が、辛いから。あゆみには、言語化できないが、彼女の母親の小言は、子どもを教育しようというより、自分のアクセサリーとして、子どもを小奇麗にしておくための、悪意に満ちていた。言語化できないものの、正しい事を言われてるのに、チクチク刺さるような物を感じていた。だから、母恋しというより、同じ厳しい事いわれるなら、悪意に満ちていない方が、ラク、というのが実感だ。
ただ、お菓子が出ないので、甘い物だけが恋しかった。
少年院の教官は面接で、そういう心境を聞いて、更正は難しいんじゃないか?と思っていた。どんなワルでも、肉親との情というものが、あって、それが、立ち直る一つの足がかりだ。でも、あゆみにはそれがない。


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