検品母
一郎は、家族がいなくなった家で、書類を書いていた。退職届と離婚届。もう、職場にも戻れないし、家族を条件付きでしか愛してなかった、いや、愛着していなかった彼にとって、家族と暮らす意味は無かった。
リビングのすみに、あゆみのローズピンクのランドセルが転がっている。自分は、能力と外見のせいで、ふさわしい妻子を持つ事ができたが、こうなってしまっては、意味がない。なんで、自分より劣った男が幸せな家庭を築いてるんだ。テレビでは「新婚さんいらっしゃい」が流れていて、ダサい男が小奇麗な妻と出ていた。
すると、インターホンが鳴った。
どうせ、マスコミか秀子の取り巻きだろ、と思いつつ腰を上げると、写っていたのは、「麗子像」そっくりの少女だった。
「3年3組の、吉冨麗華です。あゆみちゃんのモノを持ってきました。」
さすがに、子供相手には、一郎も邪険にあしらうわけにもできなかった。
ポーチに出ると、吉冨麗華が、プリントやお道具箱の類を、重そうに持っていた。
「ありがとう。」一郎は、ATMの音声のように答えると、荷物を受け取り、すぐ、ドアを閉めた。心底、面倒くさいのと、一郎には、地味な容姿の女には、モノのように扱う習性があるからだ。目を楽しませない女なんて、何だか、ただの生き物なだけだ。マトモに接するとソンをする。


< 38 / 114 >

この作品をシェア

pagetop