検品母
田村奈津子もまた、人間ピラニアどもの対応に困っていた。野良へ出ていても、買い物へ行っても、顔見知りに山口秀子はどうしたのかと聞いてくる。
あしらいに困りながら、つくづくなんでこういう事件がおこったのか、という、彼女なりのビジョンが見えてきた。
奈津子は、売っている犬も、変わったのが多くて面白いと感じる。が、ペットショップで売れ残った子犬をどうするか?と聞いて、娘に犬をせがまれても、買ってやれなかった。
売れ残った犬は薬殺するのだ。だから、犬なんていらない!と思っていたら、友人が、保健所の犬の話を持ち込んできたのだ。保健所の犬なんかいらん、と言っていた娘も、犬が来てみると、かわいがっている。
でも、散歩で行き会う人たちは、見事な洋犬を連れてる者も多い。それを見ると、保健所の犬を飼う立場で見えてくる。彼らは、犬そのものよりも、その属性すなわち容姿・血統に執着しているのではないか?ひいては、人と人との付き合いでもそういう所はあるんじゃないかと思う。犬との交流を楽しむよりも。
すると、奈津子には、スキのない山口秀子とあゆみの親子の姿が浮かんできた。ブランドものか、通販でも高い方のものを、カタログのようにコーディネートしている。それは、マニアがビンテージジーンズに執着する、ファッションに対する愛着ではなく、人から見られることのみに執着するような・・・・・
まさか、ね、と奈津子は思う。でも・・・・
よく、血統書つきの犬ほど、性格が悪くなったりすると言う、うわさがある。そのことを奈津子が犬たちを見ていて解釈してみる。奈津子はどの犬もなんかそこにいるだけで、かわいい。だが、血統書つきの犬の飼い主は無条件の愛情を注いでいないと思う。犬たちの属性のみに執着して。だから、犬はそういう所に、敏感に反応して悪い子になるのかもしれない。
山口秀子もあゆみに対して、そうなのかもしれない。子育てではなく、ペットショップのペットを管理する様な。
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