検品母
草を引きながら、そんな事を考えていると、隣の梶本昭代が声を掛けてきた。
昭代は、奈津子の夫の姉だ。
「奈津子ちゃん、こうしている間でも、あの人ら寄ってるんやろか?」
「さあ。うちら、なんぼでもする事あるのに、ヒマなんやろか?」
「そうちがう。この間図書館いったら、ピロティにまたママ友ご一行様よ。そば通るだけで、ガン付けてきて。かなわんわ。ショッピングモールやドラッグストアは良く出るから、こっちも気ぃはって行くけど。」
昭代は、息子の大学のレポートの資料を探しに行ってやっていた。
マザコンのようにも見えるが、一概にそうともいえない。
一人の教授がレポートを出すと、大学の図書館の関連本は特売のトイレットペーパーよりすぐ無くなる。
だが、幸いな事に、彼の地元の図書館は充実しており、大学より資料が確実に手に入る。が、遠距離通学では、閉館時間に間に合わない。
「また高志ちゃんのレポートかいな。小学校の夏休みの宿題だけちごて。」
「そのかわり、『こ-たろう』の出荷。来週は手伝いにこさせるねん。」
野菜のコンテナを軽トラックに載せるのは重労働だ。
「そりゃええな。手間と精神的負担の対価やな。」
昭代にも、大学生の息子が二人いる。
奈津子と同じく、夫は市内に働きに行っていて、実家で奈津子といっしょに田んぼをする。
昭代が小さい頃、ママ友なる女子校の集団の延長のような、妙な集団はなかった。
運動会や祭りで保護者が寄る事があっても。
みんな、田んぼや、こうば、おうちの商売で大変なのだ。
ただ、奈津子が結婚して、子供が思春期になる頃から、以前から進んでいたベットタウン化が加速し、関東や北摂で見られるママ友集団も多量発生するようになった。
産地直売所の『こ-たろう』の顧客の一部なので、イヤとも言えないが、部外者が見ると、変な圧迫感がある。
あの人たちは、ひょっとして、田んぼもない、パートにもあぶれた、かわいそうな人たちかもしれない。
だから、ああして、寄るしかないんだ。
そういう人を作り出す社会自体が病んでいる。
このままでは、この国は滅ぶ。
と、奈津子は、思う。

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