検品母
山口秀子は、隔日で、石田治の面接を受けていた。
「お薬は、リーゼをしばらく続けますが、喉が渇くとか、便秘するとか、困った症状はありませんか?」
「いいえ。リーゼを飲むと、頭がぼんやりするので、若いときに戻ったみたい。」
「若いとき?」
「20代はじめのとき。○○でOLをしていたの。」
「ほう、あの会社で。」
「事務職だったから残業もなかったわ。5時過ぎには、会社を出て、新しい店に行ったり、プリザーブドフラワーの教室に行ったり。」
石田治は、プリザーブドフラワーとはいえドライフラワーであり、風水上悪いよな、と思う。風水では、ドライフラワーや剥製は死骸であり、極めて負のエネルギーを放つ。
だが、精神科のクライアントは、みすみす、そういう縁起の悪いモノをつかむ。
「楽しそうですね。ミナミのお店は詳しそうですね。」
「メジャーなところはだいたい...。一郎といっしょのこともあった。私たちって、自分で言うのもなんだけど、絵になるみたいで、いくつかのバーから、タダでいいから、来てと言われたわ。」
「ああ、わかるような気がします。」
「一郎は、ほんと、気が付く男で...。身長も175cmあって、スマートで、同期でも一番早くチーフになるくらいだった。」
「そりゃ、つきあいたくなりますね。」
「そうよ、女の子はみんな一郎を狙っていたわ。」
「それであなたが、ゲットできた。」
「当然ね。私は、イケてたもの。でも、今回の事件で...。」
秀子は、千趣会のパジャマをもてあそび出した。
「...そう...一郎じゃないみたいな振る舞いだった...。あんなにソツなく、仕事もプライベートもこなすのに。どうして、子供一人の事で...。」
「いきなり、何でも出来た人が、動いてくれないと...。」
「そうね。子供の事で動いてくれないのが、なぜかわかんない...。」


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