検品母
石田は、白衣の病院の写真入ネームプレートを玩び出した。
ふつう、クライエントの家族が協力的でない場合、少しでも力になってくれるよう、クライエントの家族への、働きかけを提案したりする。しかし、一郎は、この精神病院に見舞いにすら、来ない。おまけに、秀子の母親も来ない。娘がどんな状況であれ、例え結婚していたとしても、まず駆けつけて来るはずなのに....いや、そうしない母親は、被虐待児の家庭では多いが、きちんとした家庭で...
石田は、記録を書くノートを見返しながら、
「ソーシャルワーカーを依頼します。退院後の事、あゆみちゃんの面会の事、いっしょに考えてもらいましょう。」と告げた。
フロイトの伝統的、分析的カウンセリングでは、クライエントが問題にぶつかっていくことを、解決していく事を、共に試行錯誤する。
が、こころ、ギョーカイの言葉では、自我の弱いクライエントには、支持的心理療法を取らねば、ならない。クライエントがとるべき行動を提案したり、この場合ソーシャルワーカーのようなスタッフと連帯しながら、問題を解決してゆくのだ。
「わかりました。」
秀子は、壁の時計を見ながら答えた。
秀子のように、内面を覗くのが恐ろしい人間にとって、30分の面接でも苦痛なのだ。
それを配慮して、石田は、おわりに持ち込もうと話題を振った。
「今日はこのへんにしましょう。お迎えの看護師さんに来てもらいましょうか?」
「いいえ、1人で帰れます。」










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