検品母
なんでそんなことを、思い出したんだろう?と秀子は考えていたが、なんとなくわかる気がした。秀子はあの時「私は恵子ちゃんみたいに、顔がどうにかしてなくて、夏休みも少なくならなくて、良かった。」と思いつつ励ましていたのだ。それが今、名越育子が「私の娘は、お友達を刺したりしないもんね。」と心で思いながら、秀子に接したのだった。
そう合点がいったとたんに、秀子はまた校長室で倒れた時のような、足がスーッと抜ける感覚があった。
「ママー。」起き出した緋那がやって来た。
「ひなちゃんね、もう、ようちえん、いけないの?」
秀子は、緋那を抱きながら泣いてしまった。
「ママ、なかないで、ひなちゃんもなくよ。」
二人で泣いていると、寛之が、
「うるさい!泣いたってどうにもならないだろう。」
と、どなりつけた。緋那は、ビクッとして泣き止んだが、秀子は侮蔑した視線を寛之に向けると、緋那を連れて、となりの6畳へ行った。
すると、またインターホンが鳴った。モニターで確認すると、北野和代だった。彼女も沢山いるママ友の一人だ。秀子は今度は身構えて、玄関に出た。
「山口さん、大変だけど、気をしっかり持ってね。」
秀子に何やら入った袋を渡しつつ、そう言った。やはり、名越育子と同じ、棘のある雰囲気で、励ましてくれた。表向き、気を使っているのに、何も言えない。秀子はリビングに戻り、余計重いものが、乗っかってくる感じがした。
寛之と緋那は、いつのまにかぼんやりテレビを見ている。秀子は、何をするでもなく、ダイニングに座り続けていた。
そのあと、ママ友が何人か来たが、通り一遍の励ましと、お見舞いの差し入れと、心に棘を残していった。
また朝になった。秀子はテーブルに突っ伏して寝ていた。テーブルの上の、スーパーの袋から、中の物が取り散らかされていた。寛之と緋那が、何か食べたのだろう。寛之と緋那は、着替えもせず、ソファに寝ていた。また、インターホンが鳴った。秀子はもう、インターホンがトラウマになっていたが、出ないわけにはいかない。女が、画面に映った。
「東署の者ですが。」
ああ。来た。秀子はモニターを取り落とし、また気を失った。
インターホンが鳴り止まないので、寛之が、しかたなく出た。婦警と刑事が立っていた。
「ご主人ですか?」・
「・・・はい・・・」
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