検品母
薬が効いた夢の中で、秀子との思い出がよみがえった。
お式が4月に終わり、あっという間に春も過ぎようとしていた頃だ。
50坪の1戸立てだが、秀子も子も出て行ったあとは、2部屋余っている。
秀子が里帰りして、持ってきた俵型白餡まんじゅうを広げた。
「お母さん、白餡でも百万石でないとあかんもんな。」
「そうそう。」
弥生は、玉露を淹れながら答える。
まんじゅうを食べ終わって、秀子が切り出す。
「検査薬で、反応でたねん。」
言いにくそうだが、一郎の事を報告するくらい声のトーンは高い。
「ほんまあ。」
といいつつ、弥生はうれしい半分不安を覚える。先に孫の出来た友達から、事前に障害がわかる件を聞いていたから。
「あんた、ちゃんと羊水検査しいや。それまで喜んだらあかんで。」
「あたりまえやん。ダウン出来たらお産の意味無いもん。」
「今はええなあ。そうやってあかん子生まんで済むし。」
「今は、エコーで他の障害もわかるの。倫理とかそういう系のお医者さんは口コミで、選ばなかったし。」
「関西では、古き良き優性思想のとこないやろ。みんな淀川マリア病院やシーモア病院みたいなとこ、ばっかりや。エコーで性別や障害の有無もあんまり言わんし、あったとしても、周産期こどもセンターを勝手に手配して、産まれたら何が何でも助けるんやて。あんなん、次の子できたらええんや。」
秀子は、クスクス笑いながら、説明した。
「ご心配なく。一郎のお母さんが、赤坂国際病院、手配してくれてん。」
「芸能人御用達のとこやろ、用意ええなあ。」
芸能人の退院記者会見を思い出しながら答えた。
「一郎さんちは、何でも徹底的に調べるもん。同じ設備がそろっていても、皇室御用達のところは、倫理観とか、うるさいから。だまって検査してくれたらええねん。」
越境入学ならぬ越境出産だ。
「そうや。うちらの頃は、産婆さんがあかん子始末してくれたんや。せやけど、あんたらよりちょっと上の子ぉらから、病院やろ。せやから、学年で2,3人とか、ダウンやら口蓋裂やらおったんや。」
「でも、今は撥ねてくれるとこは、してくれるけど、未熟児で助かって障害が残る子も多いんよ。」
「それやったらどないするん。」
< 50 / 114 >

この作品をシェア

pagetop