検品母
山口秀子は、食べ終わった食器を配膳車に下げられるくらい、回復していた。
「あ、全部キレイに食べたのね。」
看護師の金沢智子が、嬉しそうに言う。
病院の食事は不味いと、差し入ればかり食う患者や、拒食症で、箸を付けない患者も多いのだ。
「あっさりした食事、久しぶりですからね。」
「そうねえ。つい、家でもこってり系になってますわね。」
金沢智子は、家族に作った食事が、グラタン、てんぷら、カレー南蛮と、コテコテなもんばかりなのを反省しつつ言った。
「いや、うちじゃ、あっさりしたの作れないから。」
「というと?」
「一郎は、牛肉、刺身、白いごはんしか食べないの。」
「じゃあ、尿酸値とか心配ね。」
「それは、問題なし。AHCの各種サプリやサンGグリーンで、余分な栄養素を排出し、足りない栄養素を取り入れているから。」
「サンGグリーンは、いい青汁よねえ。で、食費嵩みますわね?そんなメニューじゃあ...」
「それも問題ないの。しっかり稼いでいるから。一郎は、粉モノや、野菜料理を、貧乏人が喰らう食事として、忌み嫌うの。ステーキに添えたレタスもプチトマトも食べない。でも、飾りとしては、要るって。あゆみと緋那は、『パパはどうして残していいの』『どうしてお肉やお刺身が倍なの』と聞くのだけれど、『パパは大人だからいいの』『パパはお給料を貰っているからいいの』と言うの。」
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