検品母
金沢智子は、返す言葉がなかった。フランスの偉大な料理人、ブリオ・サラバンは、「あなたの食べているモノを聞けば、あなたの性格がわかる。」と言うが、一郎の人柄もわかるような気がした。同じような食事傾向の、男を見たことがあるが、頭はいいが、人間ならでわの、深みや奥ゆかしさがまったく無い。いや、牛肉、刺身、もレパートリーの一つとしてはいいのだが、お好み焼きも筑前煮も食べなきゃ。
「牛肉、刺身のレパートリーを変えなきゃおこられるから、それが大変なの。ほかの奥さんが食費でレパートリーを考えるのが大変なのとは違ってね。」
秀子は自慢げに言う。
「ステーキ、肉巻き、カツ、ローストビーフ、照り焼き、ビーフストロガノフ、煮込み、すき焼き、カルパッチョ風刺身、中華風刺身、マリネ風刺身、タルタル、ネギトロ、軍艦巻き、鉄火丼、土佐風刺身...」
「なかなか、考えてはるわね。」
金沢智子は、ため息混じりに答えた。智子が看護師に憧れていた小学生の頃、精がつくのは肉(特に関西では、肉と言う表現は牛肉を指す。)や刺身だと言われていた。
だが、今は少し違う。牛肉、刺身も食べても、いいが、それよりも小さい魚や国産大豆、緑黄色野菜が勧められる。特に、牛やマグロのような、生物濃縮が激しい食材は、重金属・
有害物質がしっかり、溜まっているからだ。妊婦も、金目鯛はあまり食べては、ならない。
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