検品母
収束
山口秀子は、6畳一間のアパートに落ち着いていた。
ソーシャルワーカーの磯本悟が、しばらくの生活保護を申請し、いっしょに職探しをしてくれることになっている。
昭和50年代のゆったりした本間だが、あちこち煤けて、すみっこに家から運び出した、衣装ケースが積まれている。家電はオーブンレンジと洗濯機、冷蔵庫だけ、リサイクルショップで格安で見つけてくれた。一郎とは離婚の調停中で戻れないのだ。
玄関脇の流し台には、ソーシャルワーカーが100均でそろえてくれた最低限の食器とフライパン、ミルクパン。しみったれた一郎は、ジノリはおろか、露天で買った食器すら渡してくれない。
ある程度の生活水準で育った秀子にとって、このいきなり神田川な生活は悪夢でしかなかった。神田川では、愛し合う男女がその生活だが、ただ一人、生活を立て直し、子どもを迎えるしかない。緋那はこんな部屋になんていうだろうか?それを思うと涙があふれてきた。すると、急に携帯が鳴った。
「工藤工業の古川ですが。面接の日時は、8月の2日...」
ハローワークで見つけてくれた案件だった。
面接に出かけてみると、いかにも叩き上げ社長という感じの古川は、山口秀子の美貌に多少面食らったようだが、子ども2人連れて離婚してやっていこうということが履歴書に書かれているのを見て、いたわりの視線を向けた。秀子は、こんな地方の温泉に集団で来る中高年のような奴にそうされて、大いにムカついたが、ぐっとこらえた。
鉄骨プレハブが並ぶ工場群の事務所。映画の不良少年の乱闘シーンでしか見たことがなかったが。
「8時半出社で、5時上がりですが、残業がある日もあります...」











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