検品母
気が付くと、もう朝9時。出社時間はとうに過ぎている。今日行くはずだった会社のものらしい、着信履歴が何個かあった。
「昨日の様なお仕事ができるなら、工場で働くこともないわ。」
だから、無意識にケータイが鳴っても眠りこけていたのだろう。
山口秀子は、アパートを出ると、またフラフラと歩き出し、目に留まった喫茶店に入った。モーニングを食べていると、営業周りの途中で腹ごしらえをしている社長さんらしい男が声を掛けてきた。
「これから仕事?子どもさんを送った後なの?」
といいつつ名刺を渡してきた。
にっこりOL時代にしていたスマイルをして、店を出た。
それから、コンビニや本屋で時間を潰し、ランチタイムを少し過ぎたイタリアンレストランへ。
ランチメニューは、地場産の食材を使い、
赤舌のカルパッチョ、
水ナスと地鶏のミルフィーユ、
蕗のキャラメリゼのパスタ、
たまねぎのアイスクリームとコーヒーだ。
そこで、ランチを食べていると、かつての秀子たちのようなママ友集団が子どもを走り回らせて放置している。あーあー。どれもだっさい女ばかりた。愉しむように見回してやると、その中の15号サイズの似合わないアッシュ金髪の女が睨んできた。秀子は、艶然と笑った。すると、
「あの人、用もないのにこっちを見てる!」
と、女がママ友にふれて回る。
見苦しいおんなどもがいっせいに睨んできたが、秀子は、平然としていた。
これを潮に、ママ友集団はお会計に並んだ。
その後、コーヒーのおかわりをしていたら、マスターが小さいケーキを出してきた。
「ほんま、ああゆう集団かなわんけど、お客さんやからな。」
「どこにでもいるでしょうに。」
「いや、うっかり、食べ歩き手帳の取材、受けてもうたんよ。」
「自業自得。」
2人は、笑った。
その後、マスターが名刺を渡してきた。
「今度、まかない料理、ごちそうするよ。常連さんにしか出せへんのや。」


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