検品母
「でも、お天道様は、見ているわよ。あの子、最近売れてないやん。」
「ばば臭いなあ。まあ、うちらおばあちゃん子やしな。」
節子と百合子の祖母は、何年か前に亡くなっている。
節子が、公務員の田中吉平と、婚約した事をすごく喜んでくれたのに、結婚式の3ヶ月前の事だった。式を延期しようと、節子は吉平と話していたが、節子の両親は強行突破した。
節子程度の器量の子が、これを逃したら結婚できないと踏んだからだ。
そう、このように、地味な節子が公務員と婚約したということで、節子より器量のいい娘を持つ親達は、おめでとうのついでに、なんかゆうてくれた。
節子が泣く泣くその事を祖母に言うと、
「あんたが、ええとこお嫁に行けるのも、ちゃんとしているところを見てもらえたからやで。」と言われた。
市のバザーに良く、節子はグループで出展していたが、面倒な書類手続きや、お片づけは、みんな節子に振られていた。節子は、器量が悪いので、女どもに見くびられていただけなのだが。それを、職員の田中吉平が、「大変そうやなあ...」と目に留めたのが、ご縁だった。
「まえの皇后さんかて、学習院の生徒の中で、一人だけあかぎれ作っていたから、見初められたんや。」
香淳皇后が、みんなの嫌がるトイレ掃除を、一人引き受けていた事が、貞明皇后の目に留まり、入内につながった事を聞かしてくれた。まあ、節子とちがって、香淳皇后は京人形のようにかわいらしかったが。
祖母は、皇室おたくで、勤労奉仕に言った際、その貞明皇后にお声をかけてもらった事を自慢していた。また、地域のお寺の行事や、お墓参りに熱心だった。
どこで見聞きしたのか、授産施設に毎月一口ずつ、寄付していた。「障害のある子は、昔から福子とゆうて、大事にしたら家が栄えるのや。」


< 69 / 114 >

この作品をシェア

pagetop