検品母
そのころ寛之は、秀子の代わりに、警察で事情を話していたが、「糠に釘」とは、正にこの事という感じだった。
「あゆみちゃんは、学校で何かあったんですか?」
「別に。」
「おうちで困ったことでも?」
「別に。」
「近所のお友達と何かあったとか?」
「別に。」
事情を聞いている、婦警、野田涼子も、ホトホト、「別に。」しか言わぬ寛之に、疲れていた。デカと被疑者は、実は共通項が多く、難儀な取調べでも、それなりの心の交流みたいなものはあるのだが。野田涼子はカーナビの音声案内を連想した。いや、こちらの方が、機械とわかっているから、マシかもしれない。かつて彼女は、武闘派の、黒帯をもつ女の子だった。スケバンも避けて通るほどの。そういう人間から見て、ドロドロしたものを一切ださぬ、アンドロイドみたいな優等生くんは、理解できなかった。それでも調書は作らなければならない。「あー、どないしよう。」野田涼子は事件の調査、などよりも、調書が作れない、という本来の目的とズレた事に悩まざるを得なかった。


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