検品母
中ノ島の毎朝新聞のムック本担当記者、坂木は考えあぐねていた。
新社屋に移る前なので、IT化が進んでスッキリ片付いたオフィスも、再びごたついている。
「ほんまのこと、書いていいんかな。」
書きたい内容は、多発するナイフ振り回し事件についての考察。
「...少女Aは、両親と妹の4人暮らし。母親には、勉強だけでなく、生活面も厳しく躾けられた。しかし、この母親。少女Aを出産するときに、夫の実家近くの、セレブ御用達病院で...」
この、ゲラ刷りを読んだ、須藤は、言った。
「なんぼ、天下の毎アカ新聞と、言われていても、優性思想に踏み込んだら、ヤバイんとちゃう?セレブは、みんなお世話になってるんやし。」
「そうか。せやけど、新たな問題を告発するのが、ウチの持ち味とちゃうか?」
「じゃあ、おまえんとこは、どうだったのよ?」
「うち、かみさんが、のんびりで、気ぃついたときは、4ヶ月やった。」
「じゃあ、羊水検査もクソもないな。野良妊婦じゃあるまいし。産ませてくれる病院すら...」
「ああ。どこも間に合わんかった。しゃあないから、同級生の産科医に泣きついて、予約入れてもらった。で、医者も、通常出産だけで、人手不足で気ぃ立ってるから、羊水検査云々言うと、ネチっこくやるらしい。あいつも、ボヤいとった。『産ませてもらえるだけでもありがたく思え』」
「結局、地獄の沙汰もカネ次第ってか?」
「そうだ。95%は、正常なんやし、そこまで気を回すと、かえってドツボにはまるとまとめたい。」
「せやな。商店街のハワイ旅行にすら当たらんしな。」
「そうそう。天皇賞、全部はずした...」




< 75 / 114 >

この作品をシェア

pagetop