検品母
「え?一回も面接に来ていない?」
山口秀子担当のソーシャルワーカー磯本悟は、山口あゆみの収容されている少年院に連絡して、声を高ぶらせた。どんないいかげんな親でも、一回は面接に行くというのに。
「あ、はい。わかりました。山口秀子さんのアパートに行ってみます。」
磯本悟は、病院と通所施設の通常業務を終えた後、山口秀子のアパートに向かった。
山口秀子が家族で住んでいた町から、20km。川を越えると、旧国名が変わって、大阪市内になる。26号線を北上しながら、磯本悟は、嫌な予感におそわれる。虐待や自殺未遂が実行されていた...その後の現場に向かう時のあの感覚。この仕事をしていると、そういう感覚が身に付いてくる。流行のモンや、友人、女の影響を受けやすい磯本悟は、全身ラジオかケータイ状態。こういう仕事をしていると、感覚が鋭い方がいいので、いいかもしれない。が、疲れやすく、休日は寝てばっかりだ。
その、同和地区にある二階建てアパートは、築年数と地域の性で安いので、再出発の負担を考えて手配したものだった。

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