検品母
山口一郎の関東の実家では、親の山口二郎と涼子が20畳のダイニングで向き合っていた。
テーブルの上はチリ一つなく、食器棚は別注させたものに、ジノリなどのブランド物のみ、整然と並んでいる。この夫婦の一流趣味と、余計なものは一切排除するスタンスのように。
「身元調査は、十分したんだよな。」
「ええ。古くからある事務所でも、ベテランに...」
「調査漏れという事ないのか?テキトーに卒業名簿なんか繰って、埋め合わせして、足で稼がぬという...関西は、同和とか在日が多いから、どこかでつながりがあるとか。6親等以内に障害児がいるとか?」
「いいえ!見せてもらった写真は、元村さんところの実家や、ご近所どおりでしたわ。」
「関西は、同和とか在日を除けば、むしろ人情味あるからいいと踏んだのに!秀子は、どういう教育をしていたんだ!」
二郎は、身元調査なぞする自分達の薄情さを棚に上げてまくしたてた。
「私は、少しツンとしたところのある娘さんだといいましたが、あなたは『今時古風ないい感じ。』といったじゃありませんか。」
「だから、余計失望だ!お産の手配までしてやったのに!」
涼子は、もうオロオロしてしまって、サイドボードから、ブランデーを出した。
上には、孫のあゆみと緋那がきたとき、いっしょに写った写真がある。
「で、一郎が離婚の片付けが済むと戻ってくるらしいの。」
「なに!自己責任であんな腐ったメス豚を選んでおいてか?!」
「でも、会社も辞めたし、住むところもないし。慰謝料はあんな人のは、踏み倒せばいいですけど。」
「情けない男だな。」
「で、あなたが恥と思うんでしたら、節税対策に借りた都心のマンションにとりあえず、住まわせて...」
夫婦は、初孫が五体満足でかわいらしく生まれてきたときの喜びも忘れて、善後策を詰めていった。







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