検品母
宮下恵子は、だんじりを曳いていた頃の事を思い出した。
同じ集落の子ども達には、受け入れられたり、ハブられたりしてきたが、だんじりとなると、話は別である。
一緒になって、綱を曳いている。
彼らが、「大人になった」と思うのは、駅前パレードに参加できる事だ。
「やりまわし」といって、直角に曲がるポイントが幾つかあり、猛スピードで曲がり角に突っ込んで、巧みに切り返す。だから、ある程度、機敏に走れないと、中学生でも、どくよう言われる。
恵子は、口蓋裂を引け目に思う両親に、閉じ込められて育ったので、保育園は年長さんしかいっていない。
運動の、基礎能力ができる就学前に、地域の子ども達と走り回る経験が、ある部分ゴソッと抜け落ちている。
だから、高校になって、だんじりを曳くのをやめるのだが、終には駅前パレードに参加することは、なかった。
ただ、ありがたいと思うのは、コケた時に、必ず起こしてくれる事だ。
品のよろしくないママ集団は、子どもがコケても、起こしてあげることなんかないんだろう。むしろ、それを喜んでいる。



















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