検品母
「はん!大人なんてアホやわ!」
病院から脱走した山口あゆみは、繁華街を歩いていた。
警察病院なので、トイレの窓にも鉄格子が多いが、そのトイレは尿検査提出用に、検査室とつながっていた。
「尿コップ置いておきますね。」
と言うと、技師さんは、確認もせず、セカセカと作業をしている。
その隙に、検査室の通用口から、飛び出したのだ。
歩いていると、青白いオタク風の青年が声を掛けてきた。
「ね?学校は?」
いつもなら、キャーとか言って逃げるのだが、今はどうなってもいい。
「休み。」
すると、青年は山口あゆみの手を引いて、繁華街のはずれまで、連れて行った。良く見ると同じオタクでも、こざっぱりした感じ。ただ、油質らしく、握った手がベタベタするのがかなわん、と思う。そこには、外車が泊まっていた。
青年は、山口あゆみを乗せると、メイン通りに出た。
「どこ行くの?」
「ええとこ。」
外車は大阪市内を通り抜け、郊外に出ていた。山や田んぼが広がっている。
「なんで、わたしを連れてきたん?」
「かわいいから。」
日頃、知らない人には付いていってはいけないと言われているが、木村薫を刺した瞬間から、山口あゆみの何かがはじけ飛んでいた。
車の中は、キレイで、足元はピッタリビニールに覆われている。
「買うた時のビニール剥がしてへんの?」
「いや。張ったの。汚したくないから。」
外車は舗装された登山ルートに入って行き、途中の小道から、さらに脇へ入った。


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