検品母
光孝は、佳代子がいることも忘れたように、ビリヤードに夢中になっている。この人は、職業柄、オタクなのめりこみ方をする。そう、プログラマーなので。知り合った頃は、大手IT産業に勤め、高給取りだった。建築家に依頼した鉄骨の家もキャッシュで買った。しかし、5回血を吐き、3回胃カメラを呑んで会社を辞めてしまった。大手風を吹かすクライアントの要求に太刀打ちできないものらしい。たいていのプログラマーは。だから、今はフリーで、ITは丸投げの中小企業の社長さんやパソコンの設定すらできない個人の仕事を請けている。ド素人は、なんもしらずに任せてくれるから、気楽なもんだ。大手クライアントのように知ったかぶった要求もしない。気楽だが、収入は銀行員並みだ。
ビリヤードの玉が勢いあまって飛び、ipotにあたり、SMAPの世界で一つだけの花がかかる。
♪世界で一つだけの花、その花を咲かせるために一生懸命になればいい♪
そうだ。ユングの普遍的無意識だ。人々の意識は、別々に見えてバラバラ。
バラバラなのが、個性なのだ。
だから、普遍的無意識をいい風に取り込めば、普遍的に流行るキャラになるし、
悪い方に取り入れれば、停滞した世の中の悪しき事が流れ込み、自殺やナイフ振り回しになる。
麗華が言うところによると、山口あゆみと山口秀子の親子は、人から見てどう見えるか?のみに血道をあげる種類の人間だったらしい。
「山口あゆみちゃんは、かわいいけど、しゃべってもおもろないねん。」
「うちらの学校、私服やけど、流行っているかが着こなしのポイント。参観に来たあゆみちゃんのママもこんな感じ。ほかのおばちゃんの服装のチェックジロジロしていた。」
「何か見に行った、ディズニーオンアイスを、別のグループで報告してるけど、雑誌に載っていたレビューのほうがおもろいねん。」
まあ、大阪の事なので、おもろい至上主義をさっぴいても、なんとなくわかる。深み、個性、もののあわれのないと言う意味で、おもろない、なんだろう。
バラバラな、個性が、停滞した世の中の悪しき事が流れ込むのを、防ぐのではないのだろうか?
ウイルスソフトのように。
しかし、山口あゆみと山口秀子の親子のように、世界で一つだけの花≒バラバラの個性が、ないと普遍的無意識にリンクして、停滞した世の中の悪しき事が流れ込むのだ。


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