検品母
田中節子は、「引き寄せの法則」なる本を読んでいた。
朝ごはんの用意をして、洗濯し、吉平を送り出し、保育園に敬子を自転車で送ってからが、
寛ぎタイムだ。
20畳のリビングダイニングは、キレイに片付けられている。
気に入ったアールグレイと、いただきもののショートブレッドを用意している。
まだまだ、幼稚園に通わせられる程スノッブでないにしろ、保育園でも、ママ友特有のいやらしさがあって、そこから逃げてきた後味の悪さが残っている。
せっかく、お茶を味わおうとしているのに。
まあ、保育園は幼稚園とちがって、パートをしないと食べてけない家庭が多いので、溜まっている暇なく、子どもを預けて出て行くからいいけど。
後味の悪さを打ち消すように、田中節子は、アールグレイが冷めるのも構わず、本を読み出した。
そこには、無意識があらゆるものを引き寄せるとあった。
「でも、その無意識をコントロールする術があったら、世話ないんだけどなあ。」
わりといい家庭を引き寄せたが、つきあう女たちは、まともなのを引き寄せていない。
と、思いつつ、節子は、やっと、ショートブレッドに手をつけた。
「あの、山口あゆみちゃんの事件もそうなのかな。教育大付属池田の被害児童のお母さんが、経歴詐称の宅間とセレブ合コンで会っていたらしいけど...」
紅茶も空になり、二杯目が欲しいところだが、読み続ける。
「この本の書いてあるとおりやったら、間違った想念は、とんでもないものを引き寄せるのだな。いくら努力しても。山口秀子さんは、あんなきちんとした家庭だったんだけど。」












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