検品母
磯本悟は、何度目かの山口秀子の自宅の訪問で、やっと本人に会えた。
大家さんが、9時か10時頃出るというので、勤めている病院に訳をお話して、来たのだ。
「あのう。お話があって...」
完璧に化粧し、男からあてがわれたブランド物を着て、古びたアパートとはチグハグな秀子は、答えた。
「生活には困ってませんから、ご心配なく。」
「いえ、あの、あゆみちゃんの面会には...」
「もうあの子は関係ないんです。私の生活や人生を狂わせて!」
「でも、母親でしょう?」
「母親として、完璧にしたのに、あの子は!だから、あの子が変なんです!」
と、ヒステリックにまくしたてると、鉄骨の階段を駆け下り、去っていった。
磯本悟は、かつて、キャバクラ嬢を口説いた事があったが、誤って彼女のテリトリー以外の事を言うと、ヒステリックにかわされた。あんな感じ。華やかな、しかし、空虚な女がムキになるあの感じ。
あああ。またやっちゃったよ。
どうせ、住所も変えられちゃうんだろうな...
そそくさと、車に乗り込み、発進させる。
すぐ先の大家さんちは、ケイトウが枯れ、寒菊が勢いづいている。
そろそろ、男でもスーツの上着が暑くない頃だ。
でもなんで、クールビスとゆうても、上着着るのや。開襟シャツでええ。腹回りが気になるのなら、おなごみたいなオーバーブラウス開発せい!コイノミホコよ。磯本悟は、同郷で同窓のデザイナーにぼやいた。
ったく、寒冷な英国の猿真似する外見至上主義社会の性だ。
病院勤務でよかった。
いつのまにか車は26号線に乗り、あと2つ信号を過ぎれば、勤め先の病院だ。
そのとき、カーラジオの速報のピンポンが鳴った。
「今日午後1時頃、関東大学付属病院の形成外科病棟で、30代の女性が入院患者や付き添いの家族を刺し、死傷者が出ているようです。」
またかよ。最近こういうのがブーム?
ホコ天のチンケなパフォーマンスにでもしといてくれよ。





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