ピアニシモ~18才のシングルマザー~
司は、パジャマ姿でも、とってもかっこいい。
ついこの間まで、HIDEっていうバンドのヴォーカルだったんだ。
ただのアマチュア。
インディーズバンドのくせに、彼がひとたび歌うとなれば。
ライブハウスが、あっという間に、定員オーバーになる。
そんな彼を、わたしは、今、独り占めしていた。
司の全部が、わたしのものだった。
男子にしては、ちょっと長すぎの茶色の髪も。
『キレイ』なんて言葉が似合う、整った顔に、白い肌も。
そして。
琥珀色の瞳も。
……って、今は。
だいぶ長いあいだ閉じているけれど。
本人も、わたしも、気にしない。
司は、よくピアノも弾いている、細く長い指先を、わたしに向かって、しなやかに伸ばし。
わたしは、その手を自分の頬に導いた。
実は、司は、盲目だったから。
……自分を取り巻く世界が、明るいか、暗いかも判らない、完全な盲で。
わたしの存在を、確かめたいと思った時。
司は。
手と、唇で、わたしを、感じてくれるんだ。