ヒーローズ
「そろそろつくかな」

「まじで。やばい、俺何ができるの」

「大丈夫。今日はちょっとした人助けだから。ほら、見えてきたわ」


「――だれか助けて!」


女の人の声の方を見ると、ベランダの杭に引っ掛かってる1歳くらいの男の子。

どうやらベランダから落ちて、ひとつ下の階で服がひっかかってるらしい。


「あの子を助けるのが東くんの初任務。さ、行っといで!見ててあげるから」


手を離されて、トンと(……いや、結構ガッツリ)背中を押される俺。

お、落ちる!

そう思ったけれど、今日は落ちなかった。ふわふわと浮いている。



「ビルの裏から回って!母親には飛んでるとこ見せちゃ駄目だよー」



市原さんが叫ぶけど、俺はそれどころじゃない。落ちはしないけど、浮いてるのが精一杯でなかなか行きたい方向に進まない。



「市原さん!これ、どーすればいいんすか!」

「最初は泳ぐか走るかとにかく動くしかないかな。がんばって!」



苦戦する俺に、市原さんが助け舟をだしてくれる。

かっこわるいと思いつつもジタバタして、なんとか男の子のいるベランダに着地した。


「よ、よしよし。怖くないからな」


赤ん坊を掴んで、杭に引っ掛かった服をはずす。

上の階から泣きそうな声で母親が子供の声を叫んだ。


無理な姿勢だから手が滑らないか、冷や冷やしながら慎重に作業を進めた。


よし、とれた!


あれ?
母親の悲鳴。

反転する視界。昨日と同じ感覚。やべえ、落ちる。

一瞬焦ったけど、大丈夫だ。赤ん坊を腕の中にしっかり抱いて、あっさり着地した。


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