ヒーローズ
かすかに聞こえた、転校生の呟きの意味が分からない。

気づかず生きてきた?何にだよ?



「説明は難しいし、体験してもらったほうが早そうね」



ぐい、再び腕を引かれる。

……あ、れ?

世界が反転する。足元に空。全身に感じる風。


ちょ、まさか。
待って!



「ぎゃああーっ!」



フェンスの向こうに投げられたのだと気付いたときには遅かった。

状況を把握したと同時に、スローモーションだった世界は元通りに動き出す。

急降下。


……し、死ぬっ!





ふわり。



「え」



着地。きちんと足から、なんの衝撃もない。

立ってるよ、俺。ちゃんと両足で、五体満足。怪我ひとつない。

落ちたはず、だよな。5階建ての屋上から。


確かめるように手を握って開いて、全身をチェックして、屋上を見上げた。

調度、転校生がフェンスを乗り越える瞬間だった。


……あ、短パン履いてる。

そんなくだらないことを思えるくらい、俺は冷静で、さっきまでの焦りはなく落ち着いていた。


すとん。彼女はやはり軽く着地して俺を見る。



「私は椎名まこと。ずっとあなたを探してたの」



にこりと笑う。
その姿は天使のみたい。




「着いてきてくれるよね。いろいろ聞きたいでしょ?」



転校生、椎名まことはそう言うと、今度は強引に手を引くことなく、俺に背を向けて歩きだした。


その背中を俺は慌てて追ったのだった。


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