愛憎ちよこれいと【VD短編】

まっぷたつに割ります



姉がおかしくなったのは、去年の冬頃からだ。


彼氏ができたのは、明らかだった。


今まで無頓着だった服装を急に気にしだし、髪形も毎日工夫するようになった。


彼氏を「ゆうくん」と呼び、嬉しそうに俺に話していた。


順調に見えた。


写真を会うたびに大量に撮り、姉は楽しそうに部屋に飾り始めた。


…一ヶ月も経たないうちに、別れたけど。


結局、身体目当てで姉に近付いたらしい、いつだったか酒に溺れた姉がそう泣き喚いていた。


可哀相に、変な男に引っかかったものだ。


しかもその男は浮気をしていて、それに怒った姉が浮気相手の女に殴りかかったのがなにより痛々しい思い出だ。


可哀相に、どこまでも不憫な姉だ。


因みに姉が言う「ゆうくん」の本名を俺は知らない。


「ゆうくん」はひとりじゃないからだ。


姉は彼氏ができるたび、その彼氏を「ゆうくん」と呼んだ。


まあ別に双方が納得するならいいか、と俺は特に気に留めなかった。


ただ、姉の「ゆうくん」は一週間もしないうちにころころと変わった。


というより、あれはたぶん、援助交際かなにかだったんだと思う。


毎夜のように外を出歩き、暫くしたら帰ってくる。


短いときは明け方に、長いときは3日くらい帰ってこなかった。

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