愛憎ちよこれいと【VD短編】
ここ数日は出歩くこともなく、なぜか部屋にこもりっぱなしだ。
時折、ぶつぶつとなにかを呟いているのが聞こえてくる。
偶然扉の隙間から見えた姉の部屋は、相変わらず「ゆうくん」の写真で埋まっていた。
姉は写真が好きらしい。
今でもやはり「ゆうくん」と会うたびに写真を撮っているようで、見かけるたびに写真の量は増え続けている。
ただ、最初の「ゆうくん」が忘れられないようで、ヘッドホンをつけて笑う「ゆうくん」の写真だけはきちんと写真立てに納められていた。
……そういえば、今日は姉が珍しくキッチンをうろうろしていた。
バレンタインだからなのか、そもそも姉にあげる相手がいるのかわからないけど。
でも時々喘ぎ声が聞こえたから、また新しい「ゆうくん」を連れ込んでいたのかもしれない。
家が狭いとどこにいたって声が丸ぎこえなんだ、本当は聞きたくもないのに。
でも今日はひとが出入りする音なんか聞こえなかったけどな、姉は一体誰としてたんだか。
「………あれ、」
自分の部屋の扉を開けると、歪な形をしたチョコレートが置いてあった。
小さなハート型、だ。
少しピンク色の柄が入った、透明のビニール袋に入っているそれは、所々マーブル模様に見えた。
…俺にくれるのか?
そういやたまに俺のことまで「ゆうくん」って呼んでくるよなぁ、きっと普通に生活してたら普通に恋愛ができるのにさ……本当に、可哀相な姉。
…まぁいっか、棄てたら可哀相だし。
食ーべよ。
...fin.