三日月の下、君に恋した
 菜生はびっくりして、食い入るように彼を見た。彼の顔がほころぶ。

「ウソじゃないって。おかげでその経験を今の仕事に生かせてる」

「今の仕事?」

「広告宣伝とか、販促企画の立案。営業企画って営業とはちがうんですよ、沖原サン」

 彼がいたずらっぽく笑う。

「そ、そうなんですか。知らなかった」

「あとは?」

 質問を促されて、菜生はうろたえた。「ええと」


 聞きたいことはたくさんあるし、今の彼には何でも聞いてかまわないような雰囲気があった。でも、なんだかもうどうでもいい。

 謎だらけの人物って、誰が言ったんだろう?


「じゃ、今度は俺が聞いてもいい?」

「あ、はい。どうぞ」


「沖原さんは、子供のころどんな本が好きだった?」


 菜生は一瞬息が止まりそうになった。びっくりして、言葉が出てこない。そんな質問をされたことは、今まで一度もなかった。
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