三日月の下、君に恋した
 ほんとうは、リョウが言うように真面目でも誠実でもなかった。

 自分の勝手な都合でハトリの人間を騙して利用して、目的を果たしたら、抱えている仕事がどういう状況だろうと即座にハトリを去るつもりだった。


 嘘つきで自己中心的で冷酷で薄情なのは、自分のほうだ。


 こんなことにリョウを巻きこみたくなかったけれど、この偏屈な作家の性格はよく知っている。


「梶専務のことは大丈夫だから、気にするな。いいか、極端な言動は避けろよ。またマスコミに叩かれて酷い目に遭うぞ」

「俺はちっともかまわねーけどな」

「よくないだろ。あのときだって、俺の会社のためにあそこまでする必要はなかったんだよ。おまえのおかげで助かったのは事実だし、今でも感謝してるけど、もう二度とあんな真似はするな」

「わーったよ」

 めんどくさげに、冷めた目で適当にうなずく。


「思ってたより、悪い人じゃない……だってさ」

 ふいに彼女の言葉を思い出して、航は言った。


「何だそれ」

「おまえが帰ったあと、彼女が言ってた。おまえ、何かしゃべったのか」

「何も。あ、サングラスはずした」

 航はぎくっとして、リョウのひときわ目立つグレーの目を見た。
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